若さしか取り柄がない!

若さしか取り柄がない女子大生もとい社会人が、語ったりスベったりするブログ

涙ぐましきカラオケ道

留学していて辛いこと。私にとって、それは言葉が通じないことでも友達ができないことでもない。カラオケがないことである。

 

私は一人カラオケが大好きだ。日本にいたころは、授業の合間、休日、旅先、あらゆる余暇でヒトカラに行っていた。ヘタクソさを気にする必要もないし、どんなにマニアックな選曲でもいい。採点で自己満足に浸ってもよいし、覚えたての歌を何度も入れて覚えるのも楽しい。好きなアーティストの曲を「あ」から順に全部歌って、一晩をつぶしたこともあった。家の近くのカラオケ屋と、大学の最寄りのカラオケ屋にはかなり貢いできた自負がある。なにせ、多い時では週に4回くらいカラオケに行っていたのだから。

 

そんな人間がカラオケ未開の地に降り立ったのが、昨年の8月である。自分のカラオケ依存が想像以上であったことを、その時私は悟った。自分の中のジャイアンを解き放つ場所がないことは、予想していた以上に辛いことだったのだ。

 

しかし、カラオケがないからといって涙にくれてばかりはいられない。それなら、家で歌えばよいのだ。そう考えた私は、寮の自室でYoutube音源と一緒に歌うことを始めた。最初はそれなりに楽しかった。思えば、歌手の声が入っていると自分もうまくなったように錯覚できるのだ。部屋で歌う私は草野マサムネであり、吉田美和であり、甲本ヒロトだった。パソコンにうっすらと映るスッピンの妖怪が多少気になるのを除けば、自己陶酔に浸るのに難はなかったのである。

 

しかし、幸福な日々は長くは続かなかった。

 

歌いながら〇鳳で麻雀を打つ、いつも通りの夜だった。何半荘かを終えて、一息入れようと立ち上がる。そこでふと気が付いた。部屋のドアに近づくと、外から声が聞こえるのである。よく聞いてみると、今まで気が付かなかったがリビングでパーティーでもやっているようだ。そこそこ盛り上がっていて、笑い声やらがなる声やら賑やかだ。そこからそのことを悟るまで、多くの時間はかからなかった。

 

 

私の歌声が、リビングに聞こえていないとは言い切れないのではないか?

 

 

世の中には知らないほうがいいことが数多あるが、この事実がそうだったのかはわからない。それでも、私が受けたダメージは大きかった。

 

普通に歌っているだけならまだ傷は浅かった。しかし、カラオケの命ともいえる選曲で、私は大打撃を被ることとなる。今何かと話題のChage and ASKA、しかもChageのパートを習得しようと四苦八苦だったのだ。

 

チャゲアスといえば、拳をブンブン振り上げたくなる「YAH YAH YAH」が外せない。あのテンションはもはや不可抗力で、声を張り上げないほうが難しいのだ。他にも、「なぜに君は帰らない」「太陽と埃の中で」など、チャゲアスの曲はついつい大声で歌わずにいられないものが多い。

 


[MV] YAH YAH YAH / CHAGE and ASKA

 

しかも、さらに問題なのがChageパートだったことである。彼のパートは、基本的にとんでもなく音が高い。しかもメインの上でハモっていることが多く、凡人には結構な難易度なのだ。それを見よう見まねで真似ていた私の歌声と言ったら、それはもう惨憺たる大音量電波なのである。そんなものを漏らしていたと気づいたときの衝撃は、声帯が吹っ飛びそうになったほどであった。

 

そこからの私の工夫は、涙ぐましかった。

 

まず、リビングに人がいそうなときには歌わないことから始めた。もちろん自分の部屋からリビングの様子を直接見ることはできないが、他の部屋のドアが開く音がしたら、とりあえず我が美声は封印である。

 

さらに、念には念を入れる。自分の部屋でルームメイトの部屋からの音が気になったことはなかったが、万が一ルームメイトの自室にまで音が響いている可能性を考慮し、なるべく彼らが不快感を催さない工夫をすることにしたのだ。

 

どうせ聞こえるなら、素人の音痴よりプロの名演のほうがましだろう。そう考えた私は、まず歌うときにかける音源の音量を少し大きめにするようにした。これなら、万が一音が聞こえていても私の悪声はかき消されるはずだ。彼らの耳には、プロの歌手の麗しい歌声だけが届くことになる。

 

さらに、防音にも奔走した。まず、戸締りを徹底。気休めに鍵まできっちりかけ、ドアから一番離れた位置に陣取る。極めつけに、口元にはクッションをみっちりと当てる。正直かなり苦しいが、歌えない辛さに比べたら胃痛ぐらいのものである。帰国するころには、黒いロングコートをはためかせてドヤ顔でChageパートを歌えるようになっていることだろう。

 

それにしても、カラオケは海外ではあまり流行らないのだろうか。うまくやれば、結構根付きそうにも思えるのになあ~。