若さしか取り柄がない!

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ジョブズが憑いたと思ったら

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時として、バカバカしいアイデア進駐軍のごとく脳内を占領する。考えているときはこれ以上ない名案だと思うのだが、たいていは2~3日で頭から消えてしまうものだ。そんな私のアホアイデアの中でも、ひときわ思い出深いのが「小学生ごっこ」だ。

 

事の発端は、「団地ともお」という作品だ。男子小学生の日常を描いた漫画で、数年前にアニメになったのだが、これが我が家で大流行したことがある。たまの一家が揃う夕食では、これをみんなで見るのが習慣になっていたほどだった。中年夫婦と娘2人が、揃いも揃って食い入るようにアニメに見入り、恥じらいもなく爆笑する。とても他人の目にさらせない姿だが、それほどに「団地ともお」は我が家の生活の一部となっていたのだ。言うなれば、「ともおセンセーション」が我が家を席巻していたのである。

 

しかしそんな旋風も、アニメの放送終了に伴っていつしか去ってしまった。漫画のほうは時折読んでいたが、留学先に来てからは、この作品のことはすっかり忘れていた。

 

事態が変わったのは冬休みである。旅行三昧の周りの留学生をしり目に、ビザが取れていなかった私はレム睡眠とノンレム睡眠をいそいそと往復していた。睡眠の合間には、笑いたくて漫才やらコントやらを見る毎日。引き笑いで転げまわっているうちに、ふと頭に浮かんだのが「団地ともお」のことだった。そういえば、あれもかなり笑えたではないか。

 

それからの私は、団地ともおに命を燃やした。全部で20巻以上ある単行本の、すべての巻頭1話をくまなく無料試し読みしたのだ。あらゆる巻頭1話を、それはもうほじくるほど読んだ。貧乏学生なりの、団地ともおへのアプローチである。

 

内臓が引きちぎれるほど笑った。しかし私は、自分の中に芽生えた新たな感情を知ることになる。

 

 

小学生に戻りたい。本気で。

 

 

以前我が家でともおセンセーションが起きていた時代には、こんな感情は抱かなかった。20歳にして知る郷愁。これだけなら、「いやぁ、私も大人になったなあ」なんて、ワインでも飲みつつ悦に入れるのだが、思いのほか自分の郷愁は重傷だったようである。戻りたいという願望は、いつしかこんな執念に変わっていた。

 

 

何としてでも、小学生に戻ってやる。

 

 

最初にしたのはもちろんグーグル検索である。「一日小学生体験」のようなサービスがないかと考えたのだ。8千円までなら出すぜ!と期待を込めつつ、エンターキーを叩く。しかし、グーグル先生の返答はNOであった。そんなサービスを提供している会社は一つもなかったのだ。

 

一瞬落ち込みこそしたが、そんなことでくじけるほどヤワな願望ではない。団地ともおに裏打ちされた確かな執念は、新たな選択肢を私に与えることになる。

 

 

ないなら、自分で作ればいい。

 

 

簡単なことだ。ないなら作ってしまえばいい。そこからの私は、敏腕起業家さながらであった。詳細な「大学生のための小学生体験」の計画を、紙面に繰り出し始めたのである。一日のスケジュールに始まり、スタッフ、給食まで。我ながら、スティーブジョブズでも憑いてるんじゃないかと錯覚しそうな勢いであった。その詳細は以下である。

 

まず、当然だがランドセルを背負って登校する。ランドセルを捨ててしまったという参加者のためには、ボランティアで寄付してもらったランドセルを貸し出す。むさくるしい大学生集団が揃ってランドセルを背負う姿はさぞかしオカルトチックだろうが、そんなことを気には留めない。心は小学生なのだから、ランドセルを背負うのは至極当然である。

 

会場は、廃校になっている小学校を利用する。朝8時半集合で、もちろん1日のスタートは朝礼である。スタッフにはリタイアした元教師に参加してもらい、本物の小学生さながらの授業を受けられる。かつての教科書の登場人物との再会に、むせび泣く人続出の予定。

 

重要なのは給食である。小学生にとって、その日の給食というのは1日のウェイトの120%くらいを占めている。そこで、給食メニューを提供している飲食店と提携することで、懐かしいあの味を本格的に楽しめる仕組みを完成。さらに、「お昼の放送」も外せない。今の大学生が小学生の頃のヒット曲を流せば、盛り上がること請け合いだ。

 

小ネタで、公式サイトの名称はもちろん「学級だより」である。

 

 

ここまで書き上げるのに、10分もかからなかったと思う。我ながら、世紀の名案の誕生であると思った。誰かに言わずにはいられなくなり、長年の親友であるMに電話。

 

「あのさ、すごくくだらない話なんだけど、こんなことを思いついてさ…」

 

いいや、本当はくだらないとは思っていない。なにせMacintoshに並ぶ大発明だ。ジョブズが降りてるのだ。しかし何事も、謙虚が肝心。

 

「…で、小学生の1日を追体験できるサービスを作ろうと思って。計画はこんな感じでね、…」

 

「…でね、お昼の放送では『青春アミーゴ』とか、嵐の『Hapiness』とか流したら絶対盛り上がると思うんだよね。それで…」

 

あれ、おかしい。Mの声、これはもしや呆れ調子ではなかろうか?

 

「…で、公式サイトは『学級だより』って名前にするの。どう、いいと思わない!?」

 

だめだ。完全に笑われている。こいつ、笑ってやがる…!!まさかこの計画、すごくバカバカしいんだろうか…??

 

ついに通話は終わった。悶々を抱えた私だったが、なんと通話後、とどめの一打が突き刺さることとなる。

 

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目が覚めるのに時間はかからなかった。

 

こうしてジョブズの幻は、露と消えたのである。